2足歩行ロボットMARI-1について

1.はじめに

人型ロボットは、人間の生活環境で作業するロボットとしては最も優れた形態だと考えられています。
なぜなら人型という形態は人間が生活する場所ならどこでも作業可能だからです。
人型ロボットを実現するための基礎的な技術の中で最も重要なものが2足歩行です。
河村研究室では、2足歩行ロボットMARI-1(マリ・ワン)を用いて2足歩行の研究を行っています。
 

2.ハードウェアのデザイン

ロボットの外観

  図1 ロボットの外観                 図2 脚の構成

まず始めに、MARI-1のハードウェア関連について説明します。
ロボットの外観を図1に示します。
MARI-1は各脚に6つの関節(6自由度)を持っています。
これによりロボットの足先は3次元空間内で任意の位置と姿勢を取ることができます。

ロボットの胴体や脚はMCナイロンと呼ばれる樹脂で作られており、
他の2足歩行ロボットに比べて非常に軽量にできています。
ロボットの全高は1.21[m]、全重は25[kg]となっています。

各関節のアクチュエータとして、
ハーモニックギア(100:1)付きのDCサーボモータを用いています。
各脚の構成を、左脚を例として図2に示します。
点線は各関節でのモータ回転軸を表しています。
各関節モータの出力は、表1のようになっています。
 
表1 各関節モータ出力
関節番号
1
2
3
4
5
6
定格出力[W]
60
40
23
40
40
23

3.制御システム

MARI-1の制御システムを図3に示します。
ロボットの全ての制御はDSPで行っています。
歩行実験用のプログラムは、ホストコンピュータ上でC言語を用いて作成しています。
各関節のモータからは、ロータリーエンコーダによって角度情報を得ています。
また、胴体中央のジャイロセンサにより胴体の傾きを、
両足首の力センサにより床からの反力とトルク(床反力・床反トルク)を
検出することができます。
 

ロボットの外観

                    図3 システム構成
 

4.ロボットに関する運動学

ロボットを歩行させるためには、各関節での関節角度指令値が必要となります。
関節角度指令値は、ロボットの足先の位置と姿勢の指令値を用いて
逆運動学と呼ばれる計算をすることにより求められます。
MARI-1においては、逆運動学計算はニュートン・ラプソン法という
数値計算法を用いて行っています。

ロボットの各脚に6つの座標系を設定し、それぞれを各関節に配置します。
基本座標系は、図4に示すように胴体に固定されたX0-Y0-Z0とします。
第1関節から第6関節までに配置された座標系をそれぞれ、
X0-Y0-Z0〜X6-Y6-Z6とします。
基本座標系X0-Y0-Z0から足先の座標系X6-Y6-Z6までの関係は、
座標変換により記述することができます。

足先の位置指令値は位置ベクトルXで、
また、足先の姿勢指令値は3×3姿勢行列Aで与えられます。
姿勢行列Aの列ベクトルはそれぞれ、足先の座標系X6-Y6-Z6の各軸が
基本座標系X0-Y0-Z0に対してどちらを向いているかを表しています。
これにより、ロボットの足先がどのように傾いているかを表します。

        図4 ロボットに関する運動学
 

5.歩行パターンの生成

歩行パターンを生成するため、まず3次元空間内で
ロボットの足先の位置指令値X={x, y. z}を決定します。

X、Y、Z方向での足先の軌道は図4、5、6のように
時間の関数として与えられます。
X方向では歩幅s[m]を、Y方向では胴体の横振りの振幅d[m]を、
Z方向では足を上げる高さh[m]をまず決定し、
各点間を様々な関数でつなぐことにより軌道を生成しています。

また、足先の姿勢の指令値に関しては、
足裏が常に地面と並行になるような指令値を与えています。
 


          図5 X方向での足先の軌道例
 
 
 


          図6 Y方向での足先の軌道例
 
 
 

          図7 Z方向での足先の軌道例
 

各関節角度指令値は10[ms]ごとに生成しています。
全ての関節角度指令値を歩行プログラムに読み込み、
コンパイルした後、DSPにダウンロードします。
これにより、ロボットは与えられた関節角度指令値に従って歩行を開始します。
 

6.歩行実験

上で述べたような方法で歩行パターンを生成し、歩行実験を行います。
歩行実験の様子は、ここをクリックしてください。
この歩行実験は、歩行周期0.7[s]、歩幅14[cm]で行ったものです。

2足歩行は、大きく静歩行と動歩行に分けることができます。
静歩行は、力学的に安定な状態を保ったまま歩く歩行、
動歩行は、瞬間瞬間では力学的に不安定な状態ながら、
全体としては安定に歩くような歩行です。
静歩行に比べ、動歩行の方が歩行速度や消費エネルギーの面で優れています。
動歩行はさらに動歩行と動的歩行(準動歩行)に分けることができます。
ロボットの重心を地面に投影したものが、常に足裏の外にあるものが動歩行、
全周期ではないが、外にある瞬間が存在するものを動的歩行と呼びます。
現在MARI-1は動的歩行を行うことができます。

また人間の歩行速度は約4.0[km/h]と言われています。
現在MARI-1は、最高約1.0[km/h]で歩行することが可能です。。

今後は、
 ・腕を振ることによって垂直軸周りの回転を補償し、さらに高速な歩行
 ・消費エネルギーがより少ない歩行
 ・つま先関節を作り、蹴り動作を含む歩行
などの実現を目指しています。


Akira Yonemura(M2) <yonemura@kawalab.dnj.ynu.ac.jp>

Last modified: Mon Aug 2 21:43:45 1999